ライター

大学生時代から自立を目標にフランス(リヨン)へ留学し、バックパッカーになる。旅では銃と遭難で2回ほど死にかけたが、「死ぬこと以外かすり傷」と実感し、出会うものすべてに魅了される。社会人になってからの目標は日本一周。途中駅で下車し、その日見つけた宿に泊まるぶらり旅が好き。

「仕事、楽しい。旅、楽しい。休日、最高!」今でこそ私は、自他ともに認める何ごとにも前向きに楽しめるメンタルの持ち主ですが、じつは2020年突然訪れたコロナ禍で強制帰国となりメンタルがかなり沈みました。

「社会人になったら、もう自由に旅もできなくなるかもしれない」
「留学のために勉強もアルバイトも頑張って来たのに」
「海外留学以上に、これから先楽しめることなんてあるのかな……?もしかして、私の人生のハイライトはもう終わったのかも」

そんな虚無感に包まれ、やる気も目標も見失ってしまい、就職活動にも何となく踏み出せないまま、モラトリアム期に入り込んでいたのです。

転機。大学の原子力発電に関する1day研修

行き先は北海道。「研修の時間になったら指定の時間に集まるように」という指示以外は自由行動というゆるめのスケジュールに惹かれ、「少しでも気分転換になれば」と軽い気持ちで前乗りして参加しました。

まさか「社会人になろう!」と決めるきっかけになるとは思いもせず。

怠惰なルーティンから抜け出し、ひんやりとした気温や、初めての風景、出会う人々に触れるなかで、ふと思い出したのです。私が海外旅で惹かれていたのは、「場所」そのものではなく、人との出会いや非日常感、新しい価値観といった体験だったことに。

「もしかして、国内でも。人との出会いや未知の体験、楽しみや発見がもっとあるのでは?」
「こうしてはいられない!行った先を本気で味わい尽くせば、あの頃のワクワクはきっとまた戻ってくるはず!」

そう思えたとき、ようやく心が前を向きました。今改めて振り返ると、この北海道旅は「社会人になる」という決意を固めた旅でもあり、「旅も人生も全力で楽しもう」と考えが変わった原点の旅です。

人気のラーメンが8店舗以上楽しめる札幌ら~めん共和国

北海道を楽しむならラーメン、動物園、雪、お祭り……色々考えましたが、当時はまだ9月。

雪とお祭りを断念し、駅前の案内掲示版を見て「札幌ら~めん共和国」に辿り着きました。


2023年の夏までJR北海道札幌駅前「札幌エスタ」に存在した、昭和30年代前半頃の古い商店街をモチーフにしたラーメン街

華やかな装飾に反して、どこのお店もラーメン好きが集まる心地の良い空間。

札幌駅前の再開発により今は閉館してしまいましたが、学生の頃訪れた「札幌ら~めん共和国」は、私にとって忘れられない場所です。

北海道といえば味噌ラーメンが有名だと思っていましたが、実際に現地を訪れてみると、旭川の醤油ラーメン、函館の塩ラーメン、釧路のあっさり醤油、室蘭のカレーラーメンなど、地域ごとに個性豊かなラーメン文化があることに驚かされました。

どれが美味しいのか、なぜ人気なのか。やはり現地で味わうからこそ見えてくるものがあります。混み合う人気店で偶然相席になったのは、出張で来ていた営業職のサラリーマン。

「営業は大変だけど、出張の合間にちょっとした旅気分が味わえるのが楽しみなんです」と、笑顔でラーメンを頬張る姿に、ハッとさせられました。


それまで私は「社会人になったら旅の時間が減ってしまう」と思い込んでいましたが、考え方次第で“仕事をしながら旅を楽しむ”という選択肢もあると気づいた瞬間でした。

“食”を通じた出会いが、就職活動の考え方まで変えてくれた、思い出の一杯です。

電車移動中、ちょっとしたハプニング

「鹿が通過したため、一時停止します」普段の生活では聞きなれない電車のアナウンス。「え!?鹿……!?山奥でもないのに??」と驚く私とは違い、地元の人は「またか~」と慣れた様子。

留学先で「日本について教えて」と聞かれるたびに、「あれ、私、日本のこと何も知らないかもしれない」と感じていました。その感覚は国内を旅する中でもますます強まりました。

やっぱり、知識だけじゃ足りない。体験して初めてわかることがある。行動しないと、何も変わらない。この旅をきっかけに、日常を変えていこうと決意しました。

動物たちから生き様を学ぶ旭川動物園

旭川動物園のベストショット3枚
「シロクマって思ったよりのんびり屋さんなんだ!オオカミはもっと群れないイメージだったけど2体ともカッコいい!ペンギンは、ほかで見るより生き生きしてる!」

童心に戻って楽しめたのが、意外にも動物園でした。

シロクマもペンギンもオオカミも、自分らしく生きている姿が印象的でした。

「動物に限った話ではなくきっと人間にも、自然体でいられる場所があるハズ。
社会人になることを悲観せず、自分らしくいられる場所を探せばいいんだ」

そう思えたとき、より一層前向きな気持ちが湧いてきました。

むしろ社会人になれば、収入も安定し、会社という場所を通じてこれまでできなかったことにも挑戦できるかもしれない。思いがけない土地で、思いもよらない出会いが待っているかもしれない。

「もっとシンプルでいいんだ。悩みすぎて動けなくなっていたけれど、前に進む理由なんて、そんなに難しくなくていい」

1年以上も進路に悩んでいたのに、たった数日の出会いと、動物たちの姿で心が変わるなんて……旅はやっぱり、すごい。

樺太食堂

“現地で食べたら嫌いなものも好きになった”という体験が、北海道でも起きました。訪れたのは、いくらが名物の海鮮丼屋「樺太食堂」。

「名物料理を善意100%で勧めてくれる店主さんの前で断れる?」
「でも教授の前で残すのはちょっと……」
「旅の締めくくりを嫌な気分で終えたくない」

と、思い切って好きな蟹が添えられている蟹いくら丼にチャレンジ。
……すると大正解。臭みはまったくなく、プチッとはじけて舌に残らずすっと溶ける。

「鮮度が高いってこういうことか!」と感動しました。

偏見や思い込みは、体験で塗り替えられる。現地に行くからこそわかることがある。その証拠に店内の天井や壁は、お客さんの直筆メッセージでびっしり。感謝の言葉にあふれた、温かいお店でした。

天井や壁はすべてお客様直筆。感謝やお礼の言葉で店内が埋め尽くされています

いくら嫌いでもいくらが好きになる蟹×いくら丼

■詳細情報
・名称:樺太食堂
・住所:北海道稚内市ノシャップ2-2-6
・地図:
・営業時間:
09:00 – 15:00(L.O. 料理14:30)
・定休日:不定休
・電話番号:016-224-3451
・料金:~4,000円
・公式サイトURL:https://unidon.net/

地下350m「幌延深地層研究センター」探検

そして忘れてはいけないのが、旅の目的だった1day研修。

自由時間を満喫しすぎましたが、「幌延深地層研究センター」の記憶も鮮明に残っています。

ここでは原子力発電により出た廃棄物=リサイクルで再利用できる95%と、残り5%を人間の生活環境に影響が出ないように何重ものバリアを施していかに安全に埋設するか
地下350mの深地層で最先端の研究が進められていました。

早速その工程を防護服を着て専用のエレベーターで地下に潜り確認。原子力発電に伴って発生する、放射能レベルの高い廃棄物の処分は世界各国で課題となっているため、フランスで環境の講義を取ったときも話には聞いてました。それから「日本ではどうしているんだろう?」と気になって今回の研修にも参加。

文系の私が理系の分野に飛び込んで参加した講義でしたが、分野を超えて「知ること」の大切さを学んだ貴重な機会です。

実際に地下300mに潜って研究の様子を見ているとごみ屋敷ではなく、むしろロマンがあふれていました。

約500万年前の地層や数百万年前の海水が熟成されながら残っている様子が地下で見れるとは。こういった体験も行動したからこそわかること。気まぐれで参加した講義は人生を行動ベースに変えていくことを決意したきっかけになったのです。

■詳細情報
・名称:ゆめ地創館所在地
・住所:〒098-3224 北海道天塩郡幌延町字北進432番地2
・地図:
・営業時間:午前9時~午後4時
・定休日:毎週月曜日
年末年始(12/29~1/3)
定休日が祝日または振替休日の場合は翌水曜日
・電話番号:01632-5-2772
・料金:入館無料
・公式サイトURL:https://www.jaea.go.jp/04/horonobe/

旅は余裕があるときにするもの?

今回の北海道旅は心に余裕がなかった時に偶然決行したものです。それも「人生を変えるため」など大志や目的もなく出かけたもの。

旅をしている人を見ると「時間もお金も心も余裕がある人」というイメージがあるかもしれませんが、余裕がないからこそ、旅に出て感じることがあるのだと思います。

むしろそういう時にこそ、新しい価値観や出会いに触れるチャンスがあるのかもしれません。

余裕がない時こそ、ぜひお出かけしてみてはいかがでしょうか?

Bon voyage!

ライター

大学生時代から自立を目標にフランス(リヨン)へ留学し、バックパッカーになる。旅では銃と遭難で2回ほど死にかけたが、「死ぬこと以外かすり傷」と実感し、出会うものすべてに魅了される。社会人になってからの目標は日本一周。途中駅で下車し、その日見つけた宿に泊まるぶらり旅が好き。

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