ライター

北海道出身、関西在住。読書と珈琲と文筆と旅を愛する30歳。インドとネパールが大好き。現在、仕事を辞めて妻と二人で海外放浪中。 2023年、珈琲と文学をテーマにした珈琲ブランドを立ち上げる。いまは販売に向けて鋭意準備中…。夢は旅する珈琲屋兼作家!

⁡ーーーインドはやはり手強い。

そう感じたのは昨年秋、人生3度目のインドに渡航した直後だった。

妻と二人で長い旅に出ようと、タイ、スリランカと周り、次に選んだのがインド。チェンナイから入国して数日後、これまでの疲れがどっと出たのか、体調を崩した。それを皮切りに、旅のペースが狂い始めた。体調が治ってきても、なんだか思うように上手く行動ができないのだ。

チェンナイの街は広く、どこに行くにも時間がかかる。観光するのにちょうどいい場所で、ちょうどいい価格帯の宿を探そうとしても、なかなかこれというところが見つからない。

ホテルを転々とするも、下水の匂いがしたり、窓がなかったり、立地がイマイチだったりと、どこも難あり……。⁡そうこうしているうちに、どんどん日が過ぎていく。

元々ほぼ無計画の旅で、タイもスリランカもその場その場の思いつきだったが、それなりに楽しんで来れた。

しかしインドはそうもいかないようだ。3回目にして改めて思う。やはりインドは手強い。

……これがインドの沼だ。

その状況を打破するため、僕らはあることを思い付いた。

空港の近くなら綺麗なホテルがあるはず。

街までは距離があるかもしれないが、空港から街まで直通の電車もあったりして交通の便もいい。⁡それでも上手くいきそうになければ、勿体ないかもしれないが、すぐに飛行機で次の街へ行こう。そこで僕らは空港付近のホテルに移動することにした。

しかし、僕らは結局腰が重いままで、あまり観光にも行けず、かといってすぐに移動することもせず、そこで2週間を過ごしてしまった。

では、この旅においてチェンナイでの思い出はネガティブなものばかりだったのか。じつはそんなこともない。ひとつの場所に留まっていたからこそ得られた出会いの数々が、僕らに素敵な思い出を残してくれたのだった。

今回はチェンナイ空港周辺でのなんでもないような、だけど心温まるエピソードを紹介しようと思う。

チェンナイ 街中チェンナイの街中。細い路地をバイクと人が行き交う

おじさんのチャイ屋

⁡ホテルの向かいの通りには、お店がたくさん立ち並んでいた。

レストラン、小売店、携帯ショップ、宝石屋……。その中で、いつも人がたくさん集まっているお店があった。

それが「おじさんのチャイ屋」だった。

⁡インドと言えば、チャイ。

せっかく来たのなら、美味しいチャイが飲みたい。そう思って僕らは、このインド旅で訪れたあらゆる街でチャイを飲んできたが、ここは特に思い出深いお店だった。

この「おじさんのチャイ屋」とは、僕らが勝手に呼んでいる名前だ。いつの間にか二人の間で「おじさんのチャイ屋」「おじさんのところ」「おじさん」で通じるようになっていた。それぐらい、この期間に足繁く通ったお店なのだ。

通りにはほかにも何軒かチャイ屋はあったのだが、「おじさんのチャイ屋」がいちばん人が集まっていた。訪れてみると、その人気の理由がすぐにわかった。

チェンナイ チャイ屋チャイ屋のおじさん
店先に立っているおじさんはとてもダンディな佇まいで、寡黙に、淡々とチャイを作り続けている。いかにも職人気質な怖そうなイメージ。

しかし、出来上がったチャイを受け取った僕らが「サンキュー」と伝えると、にっこりと笑って「サンキュー」と返してくれたのだ。

その後もチャイを作っている様子を動画に撮らせてもらっていると、ちょっと照れたように笑いながら、黙々と仕事をするのだった。クールさの中に不意に見せる、はにかんだ笑顔と優しい眼差し。そこには彼の人柄が滲み出ていて、僕らはあっという間に魅了された。

そしてもちろん、チャイも美味しい。他のお店にも行って飲み比べてみたのだが、明らかにおじさんの作ったチャイの方が美味しいのだ。

インド人ではないので偉そうにチャイを語るのは憚られるが、甘さの加減やコク、口当たりなど、あらゆる要素でおじさんのチャイは抜きん出ているように感じた。

「チャイ屋を始めてウン十年、この道一筋ですねん」と言わんばかりの風格。しかし雰囲気だけではなく、彼には確かな経験と技術があることを感じた。

このお店に通っていると、出勤前や休憩中、仕事終わりにおじさんの特製チャイを求めてやって来るサラリーマンをたくさん見かけた。

空港周辺の働く大人たちを支えているチャイ屋のおじさん。その姿とチャイの味に、僕らは癒しと元気をたくさんもらった。

ライター

北海道出身、関西在住。読書と珈琲と文筆と旅を愛する30歳。インドとネパールが大好き。現在、仕事を辞めて妻と二人で海外放浪中。 2023年、珈琲と文学をテーマにした珈琲ブランドを立ち上げる。いまは販売に向けて鋭意準備中…。夢は旅する珈琲屋兼作家!

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