この記事では、TABIPPOがつくりあげた3冊目の旅の本、『女子が旅に出る理由』のコンテンツをTABIPPO.netをご覧の皆様にもご紹介したいと考え、本誌に掲載している一人旅体験記を厳選して連載しています。
今回の主人公は、カンボジアへ一人旅をした中村舞さん(当時21歳)です。
世界には、様々な理由やきっかけによってを一人旅を決意して、自分の心と体で世界を感じてきた女の子たちがいます。
手に入れたのは、どんなに高価なアクセサリーよりも魅力的な自分らしさ。
そんな女の子たちが、初めての一人旅のときに「なぜ旅に出て、どう変わっていったのか」。
すべての女性に読んでほしい、女の子一人旅ストーリーをまとめました。
\こちらの記事は、書籍化もされています/
嫌だったのに、不安だったのに出逢ってしまった
私はあの日、混乱した。
高校1年の時、留学中の姉に会うために、タイに行った日のことだった。
すべてが汚かった。乗り物の乗り方、お金の払い方、セキュリティ、すべてが適当だった。
道いっぱいにあふれる夜のお店。片腕や片足で楽器を弾く人たち。壁いっぱいに張り付くヤモリ。
食べながら、電話しながら、座りながらの接客。たばこを吸ながら歩く警察。次から次へと湧き出てくるトゥクトゥクの運転手たち。
正直、嫌だった。受け入れられなかった。
(早く日本に帰りたい。虫のいない、エアコンが効いた部屋 で、きれいなお皿と安心できる料理が食べたい)。
…ただ、嫌だったのに、不安だったのに、すべてが「出逢い」だと思った。
こんなにルールのない世界を知ったのは初めてだった。
ずっとまじめに生きてきた私にとって、自分の存在を小さく小さく感じる、裏切られたような、衝撃。
だからこそ気づけた。自分の弱さを。
世間から1ミリでもはみ出たことをするのは、不安な人だった。空気だけは人一倍読んだ。誰かに用意された道しか通らなかった。
本当は、周りを気にせずに、自分の力で行動したかった。わからないけど、おそらく小さいであろう世界で、いっぱいいっぱいになって生きているのは嫌だった。
1本ネジがとれた私は
タイで覚えた言葉「マイペンライ」。タイの人が頻繁に口にしていた。私の好きな言葉になった。
意味は、「気にしなくていいよ」「気楽に行こう」。
「おとなしい人」から「うるさい人」へ。
「まじめな人」から「クレイジーな人」へ。
1本ネジがとれた私は、どんどんどんどん変わっていった。
眠っていた好奇心が爆発した。大学1年で再び短期研修でタイへ。
その後、何かに取り憑かれたように、グアム、プーケット島でダイビング、大学2年の春に韓国へ山登り。
そして 21 歳の春。挑戦が始まった。
(カンボジアに行こう。今度は、誰も誘わなくていい)。
国内や他の先進国への旅とは比べものにならない。タイ研修の時は団体行動。
移動のバス、ホテルも手配されていた。 でも、今回は違う。
「私、カンボジアに行く」
「え? 一人? 大丈夫?」
友達に言われた。怖い、危ない、地雷の国。不安になった。
(もしも、死んだらどうしよう)。
そう思って姉と甥っ子に会いに行った。かっこいいと言われて強がったけれど、徹夜で宿の場所や緊急連絡先をメモした。
外務省のHPの注意事項も一 字一句読んだ。いらないであろうものまで、バックパックに詰め込んだ。そして朝、両親に置き手紙をして、ドアを閉めた。
「僕は君の一人目の友達だよ」
「WELCOME TO CAMBODIA」
一軒家を大きくしたようなシェ ムリアップの空港。
書かれていた文字を複雑な気持ちで読んだ。 税関にいる外国人は、みんな背の高い欧米人だ。急に自分がおつかいを頼まれた小学生のように思えた。
(しっかりしなきゃ。負けないぞ)。
くちびるを噛みしめて、空港を飛び出した。
暑苦しい。体中がチクチクする。行き交うトゥクトゥクの音が響く。むちゃくちゃな電線の数。
何屋なのかわからないお店が、道路沿いにずっと並ぶ。体中をとりまくガソリンの臭い匂いと、屋台の生臭い匂い。
(全部、現実なんだ。来てしまった)。
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こうして、11日間の旅が始まった。初めて一人で声をかけて、 トゥクトゥクに乗ってみる。ドライバーは小太りの50 代くらいの男性。お互いに、英語は片言。
(変なところに連れて行かれたらどうしよう)。
不安ばかり募って泣きそうになっていたら、ドライバーが聞いてきた。
「なんで一人なの? 彼氏は?こっちに友達がいるの?」。
知っている単語をすべて使って、答える。
「ここに友達は 一人もいない。私、すごく緊張してる」。
「OK! 安心して。 僕は、もう君の一人目の友達だからね」。
そう言って、彼はちゃんと日本語が通じるゲストハウスに送ってくれた。
初日の夜は、どっと疲れたのと、部屋のセキュリティーまで確認してくれたドライバーさんの優しさで泣きそうだった。
私は、一人旅の魅力に気づき始めた。
見つけたのは、大人の楽園
予定をパンパンに詰めるのが好きだった私は、最初の3日間、ずっと歩きまわり続けた。
孤児院でカメラを向けても笑わない子どもに涙したり、アンコールワットを訪れたり、毎晩出逢った旅人たちとお酒を飲んだり。
出発から4日目。
首都プノンペンを経て、さらに南へ。シハヌークビルという街に向かう。