その他

1996年東京生まれ。ステキな人やモノを広めるライター。2019年にフリーライターとして独立し、インタビュー記事、地方取材記事、イベントレポート、プレスリリースなどの執筆を手がける。短期間でサクッと行く旅と音楽が好き。普段は多国籍なシェアハウスで暮らしています。

こんにちは、TABIPPO編集部の伊藤美咲です。

この記事は、2022年6月15日に行われたPOOLOオープンセミナー「自分を豊かにする旅を考える〜ウェルビーイング×旅の可能性〜」の内容をまとめたレポート記事です。

今回は、前野隆司(慶應義塾大学大学院教授)さんと喜多桜子(株式会社ICORE 創業者/CHO)さんをゲストに迎え、ウェルビーイングな生き方や旅についてお話していただきました。

ウェルビーイングについての理解が深まるだけでなく、幸せな生き方をするために大事なことや考え方も学ぶことができました。講義の内容を振り返りたい方、当日は都合でイベントに参加できなかったけれど、内容が気になる方など、ぜひこの記事をご覧ください。

講師紹介

前野隆司
慶應義塾大学大学院教授

1984年東京工業大学工学部機械工学科卒業、1986年東京工業大学理工学研究科機械工学専攻修士課程修了、同年キヤノン株式会社入社、1993年博士(工学)学位取得(東京工業大学)、1995年慶應義塾大学理工学部専任講師、同助教授、同教授を経て2008年よりSDM研究科教授。2011年4月から2019年9月までSDM研究科委員長。この間、1990年-1992年カリフォルニア大学バークレー校Visiting Industrial Fellow、2001年ハーバード大学Visiting Professor。 現代世界が直面する環境・安全・健康・平和・幸福等、人間がかかわるシステム全般を対象に、学問分野の枠を超え、幅広く研究を行っている。

喜多桜子
株式会社ICORE 創業者/CHO

「幸せとは?」をテーマに、これまでに70か国200都市を訪問。帰国後は「全てのひとが”It’s my life”と胸張って送れる世の中を創る」をビジョンに株式会社ICOREを創業。2022年「世界の幸せの形」をテーマにTABIPPOプロデュースにてライツ社より出版決定。次なる夢は宇宙旅行!
-活動実績-
夫婦のあり方、幸福学、ウェルビーイングなどをテーマに、企業や学生向けイベントに数多く登壇。2019 TEDx NAGOYA登壇「幸せを探す旅」各種メディア出演、執筆活動など。

トークテーマ[1]:ウェルビーイング​​な生き方とは?

前野

ウェルビーイング​​とはWell-beingと表記し、辞書には健康・幸せ・福祉と書かれています。最近の日本では「幸せ」という意味合いで使われていることが多い印象ですが、世界的には身体も心もいい状態であるというのが本来の意味だと思います。

近年、幸福度が高い人は生産性や創造性が高く、欠勤率が低いといったことが世界中の研究でわかったために、ウェルビーイングな生き方を目指すことが盛んになっています。

さらに、人類が低成長時代の新しい生き方をしようと思ったときに、金銭的な豊かさだけでなく心の豊かさが大事であるとされていることが、現在注目されている理由のひとつに考えられます。

喜多

今、幸福度が高いと言われるデンマークに来ているのですが、デンマークの人々は贅沢ではなく、「豊かであること」や「持続的な幸せ」を大事にしているなと実感します。

短期的なものや目の前にあるものではなく、日常の心地いい時間を大事にしているんですね。それがまさにウェルビーイングな生き方に繋がっているのだと感じます。

より評価や、やり甲斐を求めて外資系に務めるデンマーク人も多いそうですが、何年かすると戻ってくる傾向があるそうなんです。やっぱり最終的には、心の豊かさを大事にしているのではないかなと。

前野

毎年行われている世界幸福度調査では、例年デンマークとフィンランドが一位を争っていて、日本は残念ながら先進国の中で最下位です。

デンマークなどは日々の生活も大事にしつつ、医療費や教育費が無料といった高福祉国家でもあるので、制度とマインドづくりのバランスがとても良い状態です。

一方で日本は先進国であるにもかかわらず、もう少しお金があれば幸せになれると思っている人が非常に多いです。

私が若い頃は日本のGPD(国内総生産)が高く、北欧はやや低めでした。しかし今となっては日本の平均年収が450万円、デンマークが1000万円超えとかなり差がついてしまっている状況です。

トークテーマ[2]:ウェルビーイングな生き方を実現するには?

喜多

私自身が意識しているのは、「自分がどうありたいか」。デンマークにいるさまざまな方にインタビューさせてもらったのですが、みんな口を揃えてダイアログ(対話)が大事だと言っていたんですね。

日本でも目的に対する会話だけではなく、「どんな人生にしたい?」「最近何が楽しかった?」という、たわいもない会話をもっと大事にすることがウェルビーイングの実現には必要なのではないかと思います。効率化よりも、無駄な時間をいかに楽しむかが大事ですね。

前野

喜多さんのおっしゃる通り、対話は大事です。私の研究結果としては「やってみよう」「なんとかなる」「ありがとう」「ありのままに」の4つを満たしている人が幸せだと考えています。

例えば、税金を上げると言ったら日本は難色を示す人が多いですが、デンマークの人は何ひとつ文句を言いません。これは、たくさん税金を払っていい国を作ろう、「やってみよう」というチャレンジ精神ですね。

また、日本人は自己肯定感が低い方も多いですが、デンマークの人は「勉強はダメだけど、自分を信じる力だけはあるから何も問題ない」とかっこいいことを言うんですよ。

「ありがとう」という気持ちも、結局対話によって育まれますよね。対話というのは、評価や判断をしすぎずに相手を尊重してコミュニケーションを取ることなので。

あと日本人は心配性で後ろ向きになる傾向があるので、もっと「なんとかなる」とポジティブに考えた方がいいですね。

そして「ありのまま」に自分らしく過ごすこと。北欧も昔は貧しかったですが、自分らしさを考えた結果、1980年代ごろから急成長しました。個性を重視し続けていくと、幸せな国になるんですよね。

健康に気をつけると健康になれるように、幸せについて気をつけると幸せになれるんですよ。僕自身もこの4つは意識するようにしています。

質問1:対話ができる関係性を築くには?

前野

相手を尊重することが大事だと思います。相手に抱いたネガティブな感情は伝わるし、自分のネガティブな感情もオーラに出ます。

相手の立場になってよく考えてみることですね。焚き火の前に座ってコーヒーを飲んで、「美味しいね」というだけでも立派な対話ですよ。

喜多

論破しないことは大事にしています。相手に何かをやってもらいたくて話すのではなく、私たちの人生をより良くするために、より良いパートナーになるためにはどうすればいいかを軸に、対話をするといいと思います。

質問2:日本にもっとウェルビーイングを浸透させるには?

前野

日本は仕事に対してのやりがいや、「やってみよう」というチャレンジ精神が世界に比べて低いんですね。今は個を活かした生き方をするように世の中も変わりつつあるので、それぞれが個性を磨いていけたらいいのかなと思います。

難しく考えずに、先に述べた「やってみよう」「なんとかなる」「ありがとう」「ありのままに」の4つを意識していれば、簡単に幸せになれますよ。

トークテーマ[3]:幸せになるキャリア選択とは?

喜多

前野さんが述べたように、やりがいを持って働くのはすごく大事なことだと思うんですね。

日本は最短最速で売り上げを伸ばすことを考えてしまいがちですが、もっと長期視点で考えてもいいと考えていて。

人生100年と言われている現代、20代や30代で成功することが正解でもないですし、そもそも社会的成功は人生を豊かにするための一つの手段でしかありません。

人生最後の瞬間に「すごくいい人生だったな」と思えるように、自分が何を大事に生きていきたいかを考えて、ひとつ一つの選択をしていくことが大事だと思っています。

前野

みなさん「ありのまま」が足らずに、人の目ばかり気にしてキャリアを選んでしまいがちですよね。大企業に入ると良いと親に言われたから、大企業を志望するとか。

喜多

デンマークでは、上下関係が全くないんですよ。

会議に遅れて来た社長の椅子が足りなくても、他の人が譲るのではなく、当たり前に社長が床に座るんです。社長だから偉いのではなく、それぞれが役割としてその肩書きを持っている感覚です。

どの職種でも自分の仕事にプライドを持って、お互いにリスペクトしている様子がとても素敵だなと思いました。まさにやりがいや「ありがとう」に繋がりますよね。

前野

喜多さんの話にあった長期的な視点とも通じるのですが、視野が広い人は幸せで視野の狭い人は不幸せという研究結果があります。

「三人の石切職人」の逸話にもあるように、石切をつまらない仕事だと思っているよりも、未来の人々の幸せを担う教会の礎を作っているやりがいのある仕事と考えた方が幸せですよね。

大企業に入ることが良くないということではなく、もっと自由な幸せを目指してもいいと思います。

質問3:昔と今で幸せの条件は変わっているのか?

前野

自由主義経済下の日本だと、幸せの条件は変わっていないと思います。

ただ、昔はみんなで同じ方に向かって成長を目指していたのに対して、今は多様な生き方ができるようになったので、中身が変わったという感じがしますね。

質問4:仕事と私生活とのバランスを保つには?

喜多

人は環境に左右されやすい生き物なので、今いる環境の価値観と違う考えを持つことは勇気のいることだと思います。

まずは多様な価値観を知ることが大事なので、色んな人と話してみたり自然の中で焚き火をしたりしてみるといいのかなと。

仕事が忙しいときこそ、あえて意識的に行うことで、自分にとって大事なことややりたいことが感じられると思います。

質問5:やりたいことを見つけるには?

喜多

やりたいことは、まさに「対話」から生まれるものだと思います。デンマークだと人と違うことが悪いことではない前提があって、人と違うからこそ自分が何をしたいのかを見出せると考えるんですね。

自分が経験することでしか得られない気づきがたくさんあるはずなので、たくさんチャレンジして間違えてみることも大事だと思います。

前野

僕も全く同じ考えですね。やりたいことは、経験しないとわからないんですよ。10個チャレンジしてみると、一番やりたかったことがわかるはずです。

僕も45歳で幸せの研究を始めて、これが自分のやりたいことだと気づきましたが、全然遅かったと思っていません。去年も59歳で書道を始めました。「もう30歳だから無理です」と言っている人を見ると、何を言ってるんだと思いますね(笑)。

少しでもやってみたいことにどんどん挑戦して、たくさん失敗してください。

質問6:ワクワクする仕事に就きたいという気持ちを周りに理解してもらうには?

前野

昔は仕事は嫌なことでも歯を食いしばってやるものという概念がありましたが、今は幸せな状態でワクワクしながら働いていると創造性も生産性も高いので、売り上げも伸びるという研究結果が出ているんです。

「楽しそうに働くことこそ生産性が高いと前野先生が言ってました」とエビデンス付きで話すのが良いと思いますね。

トークテーマ[4]:幸せをテーマにした旅で得たものは?

喜多

旅に出てよかったなと思うのは、ジャッジしないマインドが育まれたこと

世界に出ると、これまで当たり前だと思っていたことが、当たり前ではない場面が多すぎるんですよ。さまざまな価値観や考え方を知ることで、正解はないと思えるようになりました。

トークテーマ[5]:旅の経験をどのように活かして社会を豊かにするのか?

喜多

日本では想像の範囲内で生活しているので、なかなか意識しないとインプットができないんですけど、世界で想像の範囲を超える世界を見たときに、いろんなアイデアが湧きやすい気がします。

だから自分の生きがいややりがいを見つける上で、やっぱり私は旅が好きですね。

前野

旅は人生だと思っています。旅に出たら、さまざまなことをやらざるを得なくなるじゃないですか。それによって不確定な未来について学ぶチャンスになるし、人生を加速させてくれるものだと感じますね。

2年間アメリカに住んでいたときも、これまで自分はなんて狭い範囲で生きていたんだと思いましたし、コロナが明けたらみなさんもすぐに旅に出てほしいですね。

喜多

ウェルビーイングというと常に幸せな状態が良いと考えてしまいがちですが、私は不安な気持ちや苦しいことも人生において大事なことだと思っています。

不安な気持ちがあることで、「なぜ不安なんだろう?」「心地よくなるためにはどうすればいいんだろう?」と考えられますよね。

自分のいいところもうまくいかないところも全部味わうことが、ウェルビーイングに生きることなのではないかなと思います。

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1996年東京生まれ。ステキな人やモノを広めるライター。2019年にフリーライターとして独立し、インタビュー記事、地方取材記事、イベントレポート、プレスリリースなどの執筆を手がける。短期間でサクッと行く旅と音楽が好き。普段は多国籍なシェアハウスで暮らしています。

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