先日オーストリアへ一人旅をした。
理由は、5年近く暮らしたカナダのような、壮大な山の景色が恋しくなったからだ。
どこまでも続く自然と、少し冷たい空気。
カナダに住んでいた頃は当たり前だった景色が、最高気温35℃を超えるポルトガルで暮らす今、ふと恋しくなる。
3都市を1週間かけて巡り、目の前にある景色は初めて訪れる景色なのに、心のどこかでは懐かしかった。
そしてこの旅は、これまででいちばん人との出会いに恵まれた旅になった。
一人旅なのに、ひとりではなかった
一人旅は自由で気楽な反面、ときどき少し心細くなる。
食事の時間や長い移動の途中、誰かとこの景色を共有できたらと思うこともある。
でも今回のオーストリアでは、不思議なくらい人との会話が生まれた。
きっかけはモーツァルトの誕生地で有名な、ザルツブルクという都市で泊まったゲストハウスでのこと。
到着日の夜、共有スペースで旅の日記を開いていたら、同じテーブルに2人の韓国人旅人が。
Helloと挨拶をして、しばらくは皆それぞれの作業に取り組んでいた。
そのうちの一人の韓国人旅人が「どこから来たの?」と話しかけてくれた。
話していくうちに、彼も1年間カナダで暮らしていたことが分かった。
お互いカナダの思い出話をしている最中、ゲストハウスのホストがやってきた。
彼は中国系オーストリア人という珍しいバックグラウンドを持っている方。
彼は以前日本を旅したことがあり、「日本のような温かいゲストハウスをつくりたかった」と話してくれた。
ちなみに、このゲストハウスの名前は日本のある食べ物が由来。
名前を見た瞬間から、どこか親近感があって、不思議と落ち着く場所だった。
気づけば2時間以上が過ぎていた。
ザルツブルクのおすすめスポット、それぞれが旅をする理由。
初対面だったことを忘れるくらい、自然と会話が続いていた。
Mirabell Gardens
ザルツブルクを去る前日、夕方の散歩を終えゲストハウスに戻ったら、偶然にもホストもそこにいた。
荷造りを始めようとしていたその時だった。
「これから他のゲストを夕陽スポットへ案内するんだけど、一緒に行く?」
それまで雨や曇りだった天気も、この日は快晴。
全く予定になかったけど、せっかくだし参加しよう。
夕方のザルツブルクは、まるで物語のシーン。
観光ライセンスを持ってるホストはローカルしか立ち寄らない夕陽スポットや、美しい夜の街並みを背景に案内をしてくれ、街の歴史や知識を教えてくれた。
「あれ、私、一人でオーストリアへ来たんだよね。」
思わずそう思ってしまうほど、その時間は温かかった。
一人旅だからこそ出会えた人たち。
一人旅だからこそ生まれた会話。
旅は景色だけじゃない。
人との出会いが、その場所を「また帰りたい場所」に変えてくれることを、この旅で改めて教えてもらった。
観光客が少ない所で、静かに夕陽を眺める
初めての景色なのに、懐かしかった
ザルツブルクでのあたたかな時間が心に残る一方で、オーストリアの旅では何度もカナダを思い出した。
窓の外に広がる山々。街のすぐそばにある豊かな自然。
朝晩に少し冷え込む空気も、5年近く暮らしたカナダの日々を思い出させた。
世界遺産の湖畔の町・ハルシュタットを歩いているときは、湖と山に囲まれたカナダ・ケロウナの景色が浮かんだ。
また、街のすぐ近くに壮大な山があり、ハイキングなどのアウトドアが暮らしに溶け込んでいるインスブルックでは、バンフで過ごした時間を思い出した。
ハルシュタット
インスブルック
ポルトガルに拠点を移してから、ずっと恋しかった景色だった。
カナダに住んでいた頃、壮大な山や広い空を特別なものだと思っていなかった。
それは日常の一部で、いつでも見られる景色だったから。
けれど、離れてみて初めてわかることもある。オーストリアで山を眺めていたとき、目の前にあるのは初めて見る景色のはずなのに、胸の奥に懐かしい気持ちが広がった。
旅は、新しい場所へ連れていってくれるだけではない。
ときには、忘れかけていた自分の時間や、大切だった日常を思い出させてくれる。


旅先で出会った人と景色が、心をほどいてくれた
オーストリアへ向かう前、私はただ、カナダのような山の景色が見たかった。
けれど旅を終えて振り返ると、心に残っているのは山や湖だけではなかった。
ザルツブルクで交わした何気ない会話や、予定外で連れていってもらった夕陽の景色。
初めての場所なのに懐かしく感じた、山に囲まれた街の空気。
一人で旅に出たからこそ、自分のペースで景色を眺め、人のやさしさをまっすぐ受け取れた気がする。
旅は、悩みをすべて解決してくれるものではない。
それでも、知らない場所で出会う人や景色は、ときどき凝り固まっていた心をほどいてくれる。
オーストリアで過ごした一週間は、私にとってそんな時間だった。
もし最近、いつもの景色に少し疲れているなら。
遠くへ行かなくてもいいから、知らない場所へ出かけてみるのもいいかもしれない。
そこで見つかる景色や、偶然の会話が、今の自分に必要なものをそっと教えてくれることがある。
All photos by Mana