ライター
とぐちみか フリーライター

2017年3月までTABIPPOインターンとしてメディア事業部のライター/編集者、その後プロダクト事業部ではPR/制作を担当。生活史、人類学、路面電車、古道具、犬、旅、犬をこよなく愛してます。

この記事では、TABIPPOがつくりあげた3冊目の旅の本、『女子が旅に出る理由』のコンテンツをTABIPPO.netをご覧の皆様にもご紹介したいと考え、本誌に掲載している一人旅体験記を厳選して連載しています。

今回の主人公は、モロッコへ一人旅をした田島知華さん(当時23歳)です。

世界には、様々な理由やきっかけによってを一人旅を決意して、自分の心と体で世界を感じてきた女の子たちがいます。

手に入れたのは、どんなに高価なアクセサリーよりも魅力的な自分らしさ。

そんな女の子たちが、初めての一人旅のときに「なぜ旅に出て、どう変わっていったのか」。

すべての女性に読んでほしい、女の子一人旅ストーリーをまとめました。

 

\こちらの記事は、書籍化もされています/

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おじいちゃんがくれた20万円

成人式の1年前、厳格でお小遣いもお正月のお年玉くらいしかくれなかったおじいちゃんが 20万円を渡してきました。

「これを渡すから自分のためになることに使いなさい」。

突然のことに驚き、(成人式はまだ1年後なのに、どうして今渡してくるのだろう?)と疑問に思いながら、いきなりそんな大金をもらった私は、どうやってそのお金を使えばいいかわからず、しばらく考えていました。

(刺激のない毎日だなぁ。何かおもしろいことはないかなぁ)。

 

私は建築やインテリアを学ぶ四年制大学に通っていました。大学へ行き、バイトへ行き、友達と遊び、時々趣味のバンドをする。リピートで垂れ流される音楽のような毎日を過ごしていたある日のこと、授業で世界の建築物の写真を初めて見ました。

サグラダファミリア、モンサンミッシェル。それまで海外にまったく興味のなかった私でしたが、写真を見た瞬間、新たな感情が芽生えました。

(この写真の場所を自分の目で見てみたい)。

 

そして私はひらめいたのです。

(これだ!自分のためになることにお金を使える場所!)。

初めての旅先は東欧の国々。ドイツ、チェコ、オーストリア。1週間前からワクワクとドキドキ。眠れぬ夜。そんな夜に考えるのは、もちろんこれから起こる旅先での出来事です。

 

何も持っていなかった私が初めて夢中になれたもの

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photo by shutterstock

私が東欧を選んだのは、建築が見たかったというのも理由の一つですが、美術や音楽を本場で楽しみたい!というのも大きな理由でした。その素晴らしさを私に教えてくれたのが、小さい頃から一緒に美術館やクラシックコンサートに行っていたおじいちゃんだったからです。

 

初めての旅から帰国した私は、おじいちゃんに撮ってきた写真を見せました。おじいちゃんは、「行ってよかったなぁ」と、すごく喜んでくれました。

(いつか自分も何かに向かって夢中になりたいな)。

旅に出る前、ずっと考えていました。おじいちゃんの笑顔を見て、その気持ちの答えが見つかった気がしました。

(私はこれからもっともっと旅へ出て、たくさんの人に私が見てきた世界を伝えたい。そしてそんな世界を見ることができる旅の素晴らしさを伝えたい)。

私が初めて手にした、夢中になれるものは旅そのものだったのです。私の人生に革命が起きた瞬間でした。

 

おじいちゃんは、私が帰国して1ヵ月後、患っていたガンにより亡くなりました。

(あぁ、おじいちゃんは私の成人式の時には、もう自分がこの世にいないことをわかっていたんだろうな)。教育熱心なおじいちゃんが最後につくってくれたのは、素晴らしい世界へ旅に出る、きっかけでした。

 

モロッコに躍らされた乙女心

それからの大学生活、私はとにかく夢中で世界を旅し続けました。アジア、ヨーロッパ、中東、南米…。その中でも忘れられない旅はアフリカのモロッコにありました。

20歳の3月、私はポルトガル、スペインへ行ったあとモロッコへと入国しました。最初の都市はマラケシュ。民族衣装を身にまとった人々が歩き、街に漂う香辛料の香り。ヨーロッパとは違う文化が一瞬にして体中に注がれます。

この国にはリヤドと呼ばれる昔の邸宅を改装したオシャレで贅沢な気分が味わえる宿がたくさんあり、私も1泊目だけ泊まってみようと予約をしておきました。モロッコ家具でまとめられた素敵な部屋で1日目はゆっくり休むことができました。

 

2日目は街を散策し、女子に人気のモロッコ雑貨を物色。バブーシュと呼ばれる色とりどりの可愛い靴やタジン鍋、ランプ。とにかくカラフルで、見ているだけで元気が出そうなものばかり。乙女心を鷲掴みにされて、たくさん買ってしまいそうでしたが、大荷物にならないようにと自分と家族用にバブーシュだけ買いました。

 

その後はハマムと呼ばれるスパに行き、サウナの中ではアメリカ人、イタリア人、スペイン人、ペルー人と国籍の違うみんなと話を楽しみ、その日の夜は日本人オーナーが営むゲストハウスに移動して、翌日の砂漠に備えて寝ました。

 

ラクダの足音以外、音のない世界

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photo by shutetrstock

そして迎えた、人生初の砂漠へと足を踏み入れる日。マラケシュから車に乗り、走ること 12時間。ようやくサハラ砂漠に一番近い街、メルズーガに到着しました。ラクダ使いの家からラクダに乗り、夜の砂漠を数時間かけて奥地へと向かいます。人生で初めての砂漠で胸はいっぱい。

ラクダはとても力持ちで、私と毛布と何リットルもの水を運び、足場の悪いサラサラの砂漠を一歩ずつ、一歩ずつゆっくりと進んでいきました。風もなく、無音の砂漠に響くラクダが踏みしめる砂の音。砂漠を旅した者しか知り得ない世界。

 

時間はあっという間にすぎ、だんだんとラクダによる前後の揺れでお尻が痛くなってきた頃に私はあることに気がつきました。(期待していた満天の星はどこに…?)。

広い空は雲に覆われて、満天の星どころか雲いっぱい。砂漠に降るはずのない雨までも降り出したのです。寒さは増し、打ちつける雨に身体は冷えきり、星空への期待なんてどこかに飛んでいってしまった私は、とにかくラクダにしがみつくことに必死でした。

 

しがみつくこと1時間。無事に雨は止み、目的地のテントに到着。私はてっきりテントを建てるものだと思っていたので、常設されていることにまず驚きました。

簡素な造りですが、寒さに凍えていた私にとって、この広大な砂漠の中、屋内で過ごせるのならそこは天国。ろうそくの灯りとラクダの毛でできた毛布とともに砂漠の夜を過ごしました。

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とぐちみか フリーライター

2017年3月までTABIPPOインターンとしてメディア事業部のライター/編集者、その後プロダクト事業部ではPR/制作を担当。生活史、人類学、路面電車、古道具、犬、旅、犬をこよなく愛してます。

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