みんなが行きたがるところには行きたくない。ましてやハワイなんて、王道中の王道には。
━━そう思っていた。
だが、ハワイには人々が惹かれずにはいられない魅力が、たしかにある。
それは青い海なのか。南国の雰囲気なのか。それとも、完璧に設計された観光地だからなのか。
理由はよくわからない。それでも世界中の人が、そこへ向かう。そして気づけば、私もその一人になっていた。
今回のハワイへの旅は、空港での弾丸トランジット。滞在時間は、わずか4時間。だが、その短い時間のあいだにも、いくつかのトラブルが起きた。
旅にトラブルはつきもの。トラブルも丸ごと愛せるようになったら。それこそが、真のトラベラーなのかもしれない。
今回は、そんなトラブルの体験と、私なりのちょっとした対処法について綴ろうと思う。
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序章:旅は波乱の幕開け
10万円の上乗せフライト

夕方のハワイアンエアに乗って出発
連休初日。羽田空港は大量の旅行客でごった返していた。
「こんなはずじゃなかった」
本来の予定では、出発は2日前。空いている便でゆったりとハワイ入りするはずだったのだ。
早めに予約したはずのハワイ経由ロサンゼルス便で、日程をずらしただけで手数料10万円が上乗せされた。合計20万円のフライト。
旅はまだ、始まってもいない。それなのに、すでに最初のトラブルが起きたようなものだった。
旅程も2日削れ、さらにお金まで積んで、私はこれから一体何を得られるのだろうか。
「いい勉強代だ」と自分に言い聞かせるしかない。思い通りにいかないスケジュールを飲み込むことも、また、会社員の宿命なのだ、と。
最初のトラブル:ビールこぼし事件

ハワイアン航空も例に漏れず満席だ。
機内アナウンスとともに、いかにもハワイという感じの音楽が流れる。その瞬間「もうここはすでにハワイだ!」と、私はすっかり浮き足立っていた。
さっきまで10万円の上乗せフライトに頭を抱えていたはずなのに、飛行機に乗ってしまえば不思議なものだ。
「たまには贅沢な旅もいいじゃないか。これまで必死に頑張ってきたんだから」そんなふうに思いながら、少しだけ優越感に浸っていた。
隣の席には、60代くらいの男性。「一人旅同士、これも何かの縁だな」と、8時間のフライトを共にする相手に、勝手に仲間意識をもっていた。
……が、そんな思いも束の間。旅の最初のトラブルは、あまりに唐突な「ビールこぼし事件」だった。
隣の男性が静かに缶ビールを開けた瞬間、何かの拍子で中身がこぼれ、私のズボンにかかってしまったのだ。
このズボンは今回の旅の一張羅。10年も履き続けている、お気に入りの黒のワイドパンツだ。というかこれしか待ってきていなかった。そんな大事な相棒が、旅の序盤から見事にびしょ濡れになってしまった。
もちろん男性は謝ってくれたし、私も「そのうち乾くので大丈夫ですよ」と笑って受け流した。
ふと思う。日常ではこんなことはあまり起きない。それなのに、旅先ではなぜか起こってしまう。これもきっと、旅人あるあるなのかもしれない。
スカイブルーの海 直射日光に片目を瞑る

8時間のフライト。飛行機が高度を下げると、島々が見え始めた。目の前にはスカイブルーの海が広がる。
「ああ、これがハワイか」。なぜか、同じ太平洋に浮かぶ島、フィジーの記憶がよみがえってきた。パプアニューギニアやソロモン諸島を経由して行った、フィジーでの日々。
ホノルル空港に到着すると、南国特有のじわっとした湿気と、熱気が体をまとう。思わず片目を瞑りたくなるような強い日差しとともに、聞こえてきたのは”Welcome to Hawaii!”の声だった。
陽気な挨拶とともに流れるフラの音楽。フラダンスを習っていた私は、思わず踊り出したくなる気分だった。
外国にいるというのに、まわりには日本人も多くて、不思議なほど安心感がある。それでいて南国特有のゆったりとした雰囲気だ。ハワイが人々を惹きつける、その理由がなんとなくわかる気がした。
次のトラブル:空席待ち
あなたの席は空席待ちです

空港内でアメリカ価格のミネラルウォーターを買い、カットフルーツを食べながら、深夜便の移動で疲れた体を休める。
「次のフライトまでは4時間。ひと眠りしておこうかな」
念のため、先に航空券の発券だけはしておこうと空港カウンターへ向かった。ところが、スタッフが何度確認しても、返ってくるのは「NO」の一言。
━━え? 私の席、取れてないの?
まさかの事態だった。事前に予約を済ませていたはずなのに、なぜか「ヴェイカンシー(vacancy)」という、“空席があれば乗れる”スタンバイ扱いに回されていたのだ。
「私は予定どおりアメリカにたどり着けるのか……? いや、ここも一応アメリカなんだけどさ」
そんな不安が、さっきまでの眠気を一気に吹き飛ばす。旅程はカツカツ、小さな遅れも許されない。ここで立ち止まるわけにはいかないのだ。
一人旅好きなのに、心配性な私はいてもたってもいられなかった。